すばらしい日々

アルコール。私の二つの視力が失せ、脳にこびりついたモラルが溶けて流れていく。そうして私は全部が解るようになる。この「解るようになる」という言葉の持つ脆弱さは決して耽美ではない。偶像でもない。憧れでも、海の向こうの国のものでもない。私の私による私の為の「言葉」だ。……そう願っているのだが。

ひどく渇いた気持ちがしばらく続いている。そして、この気持ちに気付いた日のことを覚えている。深夜、レンタルビデオ店の棚に置かれたイージーライダーのパッケージを手に取り、恋人が私に尋ねた。「観たことある?」「残念ながら」「観た方がいいよ、オススメ。カラッカラになるよ」

パチンッ!!と、この瞬間に名前をつけられた私のこれは、以来凄まじい速度で私を蝕んだ。カラッカラな気持ち。乾いた気持ち。結果!やっと覚え始めていた他人との踊り方や笑い方をすっかり忘れてしまった。忘れた?知らなかった?

アルコール。孤独なダンスホールから部屋に帰り着いた朝、今なら人も殺せると本気で思う時がある。憎しみも哀しみもなく、とても穏やかな心拍数で。けれど、脳に蘇る私のモラルが間違いだと叫ぶので、もう、いいです。


松井 良太