間違った夜に

16歳の頃、恋人に椎名林檎を勧められて勝訴ストリップというアルバムを聴いた。イヤフォンをはめて、再生ボタンを押す。そして「しかしなぜにこんなにも目が乾く気がするのかしらね」というこのアルバム最初の彼女の言葉を聴いた瞬間、私の目は逆に潤んでいた。その場に崩れてしまいそうだった。当時、私は私のことを何かの病気だと思っていた。なぜこんなにも他人の目や気持ちが気になるのか。本当は自分の生きやすい場所を作りたいだけだったのに、なぜこんなにも身体が重くなっていくのか。これは病だ、業や原罪とは別の、もっと脆弱なこびりついて取れない汚れのようなものだ。好い加減、落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ!!!!!!
しかしイヤフォンの向こうの彼女はぶっ潰れたギターの音とふざけた笛の音と一緒に、私を含めた全ての人間に睨みをきかせたのだ。(つまりは私も、あるいは私の数少ない愛する人達も魚の目をしているクラスメイトだった……その時は)

そして現在、自室でその虚言症を聴いている。当時はなかった白いソファに座り、アルコールで使い物にならなくなった目を閉じて私はまたこの曲に震わされる自分自身を繰り返している。そして無口なアルコールは私を酔って弱らせた後、身体を乗っ取り話し出す。

「髪の毛を誘う風を何ともすんなりと受け入れる」「うん、解る」
「眩しい日に身を委せることこそ悪いこととは云わない」「それも、今なら解る。でも…」

でも、私はまだあなたに睨まれていたい。


松井 良太