お寿司屋さん

先週の仕事帰り、久しぶりになるみと電話で話した。彼女とは十代の終わり頃にネットで知り合って、その頃なるみは浪人生と付き合っていて、私は時給だけで選んだゲームセンターのアルバイトで得たお金で日々の惰性を繋いでいた。
その頃は夜中、たまに電話でくるりとか向井とかお互いの生活の話しをダラダラして朝を迎えることもあった。

なるみはよく相談事を持ち掛けてきたり、私と私の恋人のことを褒めてくれた。その頃私は男の人を信じることが出来なかったので、年上の女性である彼女に恋人のことを褒めてもらえるのはとても嬉しいことだった。私もよく本心から彼女や彼女の選ぶ様々なものを褒めた。

久しぶりに話したなるみは初めて話した時と変わらない、しまほまほに似たあの声でいつものように私を気にかけてくれた。まさに彼女が知り合ってしばらくして名付けた「いとこのお姉ちゃん」という彼女自身の立ち位置は言い得て妙だと思う。近況の報告が終わる頃に丁度私は駅に着いた。それを察して話しを終わらせてくれたので、私は電話越しに会釈をしながら「ありがとう、また」と言って電話を切った。

そして一昨日恋人とお寿司屋さんでお昼御飯を食べていた時、板の上のお寿司を右から左に眺めて恋人はうーん、と何かを考えていた。どのネタから食べるべきか悩んでいるようなので、好きなのから食べていきな、と言うと何かゴニョゴニョ言いながら手を付け始めた。その光景を見ていて、もしこんなやりとりをなるみに話したらまた笑って、なんかいいね〜とか言いながら褒めてくれるんだろうなって思った。思わず笑ってしまった私に恋人は顔をしかめていたけど、なんでもないよ、と言って私もお寿司に手を付けた。


松井 良太